PROGRAM NOTE

「贖いのアリア」

 

静寂に沈む空を 優しく風が吹き抜けて
取り戻した生命(いのち)が目を覚ます

 

息吹は光を纏い 朝を告げる旋律となり
閉ざした心 そっとほどきながら 愛を迎えにゆくの

 

悲しみに濡れた贖いのアリア 等しく響く世界の終わりに
人は何故 生きる力を 忘れてはいなかった
地平へと馳せる赦された調べ 遠い昔に手放した希望
ふたたび繋ぐ 喜びを歌おう はじまりの地で

 

どうしても同じ場所を 何度も選んでしまうような
正解のない夢を見ていたね

 

傷ついた羽を隠し 抜け出せない痛みの果てに
それでも此処で 消えない残像と 愛を呼んでいたくて

 

救いを求めた魂のアリア 眩しく満ちて印された奇跡
人はそう 弱く儚い だからこんなに強く美しい

 

純白に導かれて 何もかも洗われてゆくの
この歌は遠くどこまでも いつか声が嗄れたとしても

 

悲しみに濡れた贖いのアリア 等しく響く世界の終わりに
人は何故 生きる力を 忘れてはいなかった
地平へと馳せる赦された調べ 遠い昔に手放した希望
ふたたび繋ぐ 喜びを歌おう はじまりの地で

 

● 解説 ●
アリアとは、オペラや宗教音楽における、叙情的な独唱曲のこと。物語の大切な場面、登場人物の思いのたけを歌いあげます。さて、Kleissisのアリアは、どのような想いを歌ってくれるのでしょう。

ここでちょっと音楽的な話をしますと、《贖いのアリア》はニ長調。Kleissis楽曲は、そのほとんどが短調です。《Kleissis Chaos》にはじまる世界観を踏襲すれば、それも自然かと思いますが、原点となる楽曲のカップリング曲が数少ない長調の楽曲(かつ、最も穏やかなバラード)である点は、なかなか面白いところです。

歌詞の内容も、「破壊」を歌った前曲から一転、はじまりへの希望を歌います。「純白に導かれて、何もかも洗われてゆくの」――まさに、女神の歌声で世界が浄化されていくかのよう。

ただ、これを単なる「希望の歌」と捉えるのは、いささか抵抗があります。Kleissisが、人間の強さを、美しさを、《Kleissis Chaos》のカップリング曲である《贖いのアリア》で歌う意味。《Kleissis Chaos》は、破壊と混沌の世界を歌い、鎮魂の祈りで曲を終えました。それに続くこの《贖いのアリア》は、はじまりへの希望であると同時に、終わりへの慈悲。この曲こそ、鎮魂歌(レクイエム)ではないかと、私は思うのです。

間奏部に聴こえるのはアイリッシュフルート。気持ちよく響く高音は、空を自由に舞う鳥を思わせます。オリーブをくわえた幸運の白い鳩だと、素敵ですね。